死亡事故が起こったら「相続」に関する正しい知識が必要です。
以下では死亡事故の遺族となったときに押さえておきたい相続の問題について、解説します。
1.損害賠償請求権は各自が別々に行使できるのが原則
死亡事故では、民法が定める「法定相続人」が損害賠償請求権を受け継ぎます。損害賠償請求権は「法定相続分」に応じて分割されて承継されると考えられているので、個々の相続人は「自分の法定相続割合の賠償金」を加害者に求めることができます。
2.保険会社は代表者を決めないと示談交渉に応じない
ただし現実には、個々の相続人が自分の法定相続割合の賠償金を保険会社に請求しても、保険会社が示談交渉に応じないことがほとんどです。
保険会社は「相続人の代表者を決めて連絡するように」と言ってきます。つまり相続人が複数いる場合には、示談交渉のための代表者を決めなければならないのです。
法的には個々の相続人による権利行使が認められているのに、示談では全員がまとまらないといけないのはなぜなのでしょうか?
1つには保険会社の便宜の問題です。保険会社がそれぞれの相続人と個別に交渉するのは大変ですが、窓口を1つにまとめてもらったら保険会社の担当者は1人で済みます。
また個々の相続人と示談を別々に行うと、同じ事案でも相続人によって異なる計算方法となるなど不合理が生じる可能性があるためです。
3.訴訟を行えば個々に請求できる
「代表者を決めてほしいと」いうのは保険会社側の事情であり、法的には個々の相続人に請求権が認められています。そこで損害賠償請求訴訟を起こせば個々の相続人が法定相続分に従った賠償金を求めることが可能です。
4.弁護士に依頼して窓口を1つにまとめられる
相続人が多数でお互いに連絡を取りにくいケースでは、全員が弁護士に依頼することによって窓口を一本化し、スムーズに賠償請求を進める方法もあります。
5.借金が残されていた場合
死亡した被害者が借金をしていた場合、相続との関係で大きな問題が発生します。
法定相続人が借金を相続したくないなら、基本的に「相続開始後3か月以内」に家庭裁判所で相続放棄の申述をする必要があります。ただ将来死亡事故の損害賠償金が入ってくる可能性があるなら、相続放棄すると賠償金も受け取れなくなって損をする可能性があります。
このように借金と賠償金の両方を相続した場合、資産と負債のどちらが多くなりそうかを検討しましょう。死亡事故ならかなりの賠償金が入るはずですが、負債が多額であれば依然として債務超過の可能性もあります。
また相手が保険に入っているかどうかも問題です。相手が無保険の場合、たとえ裁判で高額な支払命令が出ても実際には支払ってもらえない可能性があるからです。
死亡事故の相続人となったときに相続放棄すべきかどうかについては慎重な検討が要求されます。
死亡事故が発生したとき、被害者の相続人として対応に迷ってしまうケースも多々あります。お困りでしたら弁護士までご相談下さい。