関係を解消したいのに、自分の名義で借りている部屋に相手が住み続けている。自分の家なのに帰ることができない――。本記事では、弁護士が交渉を引き受けて相手方の退去を実現し、その後の接触も止まった経緯を紹介します。
※本記事は当事務所が実際に解決した事例をもとに作成しています。依頼者のプライバシー保護のため、氏名・年齢・具体的な状況等については一部変更を加えています。
事案の概要(ご相談前の状況)
自分名義の部屋に相手方が残り、帰宅できない状態に
依頼者は、関東地方在住の女性です。交際していた男性(相手方)と、依頼者の名義で借りた部屋で生活をともにしていました。
しかし関係が悪化し、依頼者は関係を解消したいと考えるようになります。ところが相手方はこれを受け入れず、その部屋に住み続けました。契約上の名義人は依頼者であるにもかかわらず、依頼者自身が自宅に帰ることのできない状況に置かれてしまったのです。
相手方からは、依頼者に対して金銭に関する主張も向けられていました。交際期間中に支出した費用や立て替えたとする金銭について、返すよう求められていたのです。
自分の家に帰れず、連絡も止まらない。この状態を自力で解決することは難しいと判断された依頼者は、当事務所にご相談のうえ、ご依頼いただきました。
弁護士の対応と解決への流れ
郵便が届かない状況で、確実に通知を到達させる
受任にあたり、担当弁護士はただちに受任通知書を作成し、相手方が居住する部屋宛に内容証明郵便で送付しました。念のため、同じ内容を書留でも重ねて送付しています。
ところが、いずれも受け取られないまま郵便局で保管され、最終的に持ち戻りとなってしまいました。相手方は依頼者への連絡を続けており、通知が届いていないことは明らかでした。
そこで担当弁護士は、依頼者のメッセージアプリのアカウントから受任通知書のデータを送信していただく方法に切り替えました。あわせて、今後の対応は当事務所に依頼したこと、以後の連絡は弁護士宛てに行うこと、同じ内容の書面を内容証明郵便で送付済みであることを、定型の文面として送っていただいています。送信後は、相手方のアカウントをブロックし、電話番号も着信拒否の設定をしていただきました。
郵便が受け取られないという事態は、決して珍しいことではありません。複数の経路を用意しておくことで、通知の到達を確保することができます。
自分名義の部屋でも、勝手に立ち入ることはできない
介入後、依頼者からは、部屋の鍵を交換してよいか、相手方がいない間に立ち入ってよいかといったご相談が寄せられました。
担当弁護士は、いずれも控えていただくようお伝えしました。契約上の名義人がご自身であっても、相手方が現に居住している以上、その占有は法的に保護されます。無断で立ち入る、鍵を交換する、荷物を運び出すといった行為は、自力救済として違法と評価されるおそれがあり、かえって相手方に反撃の材料を与えることになりかねません。
退去してもらうには、話し合いによるか、最終的には明渡しを求める法的手続によることになります。もどかしく感じられる場面ですが、ここで手順を誤ると、立場が逆転してしまいます。
現実的な退去期限を設定し、金銭の主張は書面で求める
担当弁護士は、相手方に対して退去を求める交渉を進めました。
当初は短期間での退去を求めましたが、相手方からは、年末年始にあたること、転居先の契約や審査に時間を要することを理由に猶予を求められました。担当弁護士は、所内で検討したうえで、現実的な退去時期を設定する方針を採っています。期限を短く切りすぎれば、守られないまま交渉が長引き、かえって時間を要することになりかねません。実現可能な期限を定め、そこを動かさないことのほうが、結果として早い解決につながります。
交渉の過程では、相手方から金銭に関する主張が繰り返し示されました。担当弁護士は、そのつど、請求するのであれば法的根拠を示したうえで書面で提出するよう求めました。口頭のやり取りに応じ続ければ、論点が際限なく広がり、退去という本来の目的が遠のいてしまうためです。
また、相手方の私物や自動車の鍵などの返還についても、当事務所が間に入って郵送する方法を取りました。当事者が直接顔を合わせる機会を作らないためです。
退去後は、あえて請求せず関係の遮断を優先
交渉の結果、相手方は約束した期限までに部屋を明け渡しました。担当弁護士が退去を確認したうえで、依頼者に部屋へ戻っていただき、鍵の返却も受けています。
その後、依頼者から、室内の一部の物品が壊されていたことについて損害賠償を請求したい、また合意書を作成して安心したいというご希望が示されました。
これに対して担当弁護士は、慎重な判断をお伝えしました。請求すること自体は理屈のうえでは可能です。しかし、相手方からも金銭に関する主張が出ている以上、こちらから請求を起こせば、相手方の反論を誘発し、収まりかけた紛争が再燃するおそれがあります。実際に回収できる見込みも不透明でした。依頼者にとって最も重要なのは、相手方との関係を完全に断ち切ることです。
依頼者はこの説明に納得され、請求を見送る判断をされました。その後、相手方から依頼者本人への接触も、当事務所への連絡もなく、3か月以上にわたって接触のない状態が確認できたため、事件を終結しています。
解決結果と弁護士のコメント
解決内容
- 交渉により相手方の退去を実現し、依頼者が自宅に戻れる状態を回復
- 相手方からの金銭請求に応じることなく解決
- 私物の返還も当事務所が窓口となり、当事者が直接会うことなく完了
- 弁護士の介入後、相手方から依頼者本人への接触が止まった
- 3か月以上にわたり接触のない状態を確認して終結
担当弁護士からのコメント―同居していた相手が出ていかない場合は弁護士にご相談を
関係を解消したいのに、同居していた相手が出ていってくれない。自分の名義で借りた部屋なのに帰ることができない。こうしたご相談は数多く寄せられます。
まず申し上げたいのは、ご自身の名義であっても、相手方が現に住んでいる以上、勝手に立ち入ったり、鍵を交換したり、荷物を運び出したりすることはできないということです。相手方の占有は法的に保護されており、これを無視した行為は自力救済として違法と評価されるおそれがあります。追い出すつもりの行動が、かえってご自身を不利な立場に置いてしまいかねません。退去を求めるには、話し合いによるか、最終的には明渡しを求める法的手続によることになります。
次に、退去の期限についてです。一日も早く出ていってほしいというお気持ちは当然ですが、転居先を確保するには一定の時間がかかります。実現困難な期限を突きつけても守られず、交渉が長引くだけということが少なくありません。現実的な期限を設定し、そこを動かさないという姿勢を保つほうが、結果として早く解決します。
また、この種の事案では、相手方から金銭に関する主張が持ち出されることがよくあります。生活費を負担した、立て替えた、といった内容です。こうした主張に口頭で応じ続けると、論点が際限なく広がり、本来の目的である退去が遠のいてしまいます。請求するのであれば法的根拠を示して書面で提出するよう求める。この姿勢を一貫させることが重要です。
そして、退去が実現した後の対応にも判断を要します。室内の損傷などについて請求したくなるお気持ちはよく理解できます。しかし、相手方にも言い分がある状況で請求を起こせば、収まりかけた紛争を再燃させることになりかねません。回収の見込みと、平穏を取り戻すこととを天秤にかけたうえで、何を優先するかを決める必要があります。本件では、あえて請求をしないという判断が、結果として静かな解決につながりました。
なお、相手方が郵便を受け取らないというケースも珍しくありません。本件でも内容証明郵便が持ち戻りとなりましたが、ご本人のアカウントを通じた送信に切り替えることで、確実に通知を届けることができました。通知が届かないという理由で行き詰まる必要はありません。
同居していた相手が出ていってくれない、自分の家に帰れない、連絡が止まらないといったお悩みをお持ちの方は、お一人で抱え込まず、ぜひ一度当事務所にご相談ください。
