- 相手方から届いた示談書に「求償権を放棄する」という条項が入っていた
- 求償権という言葉の意味が分からず、サインしてよいのか判断できない
- 慰謝料を全額支払ったので、不倫相手にも負担を分けてもらえないか知りたい
こんな悩みにお答えします。
不貞慰謝料(不倫の慰謝料)を請求された方の多くは、示談書で初めて「求償権」という言葉を目にします。意味が分からないまま放棄条項にサインすると、本来分け合えるはずの負担をひとりで抱えることになりかねません。
一方で、求償権の放棄は相手方にとって価値のある条件です。放棄を求められたからといって、そのまま応じなければならないわけではなく、減額交渉の材料として使える可能性があります。
すでに全額支払った方でも、条件を満たせば不倫相手に負担分を請求できる場合があります。
本記事でわかることは、以下のとおりです。
- 不倫の慰謝料における求償権の意味
- 示談書で求償権の放棄を求められる理由と、求償権放棄のデメリット
- 求償権放棄を減額交渉の材料にする進め方
- 支払った後に求償権を行使するやり方と注意点
最後まで読むことで、示談書の求償権放棄条項への対応と、支払った慰謝料を一部取り戻せる可能性があるのかがわかります。ぜひ最後までご覧ください。
不倫の慰謝料における求償権とは

求償権とは、複数人で負担すべき債務をひとりが支払った場合に、他の人へ負担分を求める権利です。以下の順に解説します。
- 不倫の慰謝料は共同不法行為として扱われる
- 負担部分を超えて支払った分を調整できる仕組み
- 請求された側にとっての意味
不倫の慰謝料は共同不法行為として扱われる
不倫は、配偶者と不倫相手の2人が共同で行った不法行為(共同不法行為)と考えられています(民法719条)。
共同不法行為では、加害者それぞれが損害の全額について賠償責任を負います。そのため、被害者である配偶者は、不倫相手ひとりに対して慰謝料の全額を請求することができます。
負担部分を超えて支払った分を調整できる仕組み
もっとも、全額を支払った人がそのまま損をするのは不公平です。そこで加害者の間には内部的な負担割合(負担部分)があるとされ、負担部分を超えて支払った人は、超えた分を他方に請求できます(民法442条)。これが求償権です。
たとえば慰謝料200万円を不倫相手が全額支払い、負担割合が半分ずつなら、配偶者に100万円を求償できる計算です。
請求された側にとっての意味
請求された側にとって、求償権は「支払った後に一部を取り戻せる可能性」を意味します。
逆にいえば、放棄すればその可能性を手放すことになります。示談書を判断するうえで、この点が出発点になります。
示談書で求償権の放棄を求められる理由

相手方から届く示談書に求償権の放棄条項が入っている理由は、主に以下の3つです。
- 配偶者に請求が向かうのを避けたいから
- 夫婦関係を継続する前提の解決を望んでいるから
- 紛争を一回で終わらせたいから
配偶者に請求が向かうのを避けたいから
求償権が残っていると、慰謝料を受け取った後に、不倫相手から配偶者へ求償の請求が届く可能性があります。
配偶者が求償に応じて支払えば、夫婦の家計から出ていくお金となり、相手方としては受け取った慰謝料の一部が実質的に戻ってしまう結果になります。
これを避けるため、示談の段階で放棄させておきたいというのが最大の理由です。
夫婦関係を継続する前提の解決を望んでいるから
離婚せずに夫婦関係を続ける場合、配偶者へ求償が向かうことは家庭の再建にとって大きな障害になります。
配偶者が不倫相手と金銭のやり取りをすること自体、被害者には受け入れがたいものです。夫婦関係を修復する前提の相手方ほど、求償権の放棄を強く求める傾向があります。
紛争を一回で終わらせたいから
求償権が残っていると、示談成立後に求償をめぐる別の紛争が起こる可能性があります。
負担割合が争われれば相手方も無関係ではいられません。示談で全てを終わらせたいという意向から、放棄条項が入れられることもあります。
求償権を放棄すると生じる影響

求償権放棄のデメリットを理解しないまま示談書にサインするのは避けるべきです。以下の順に解説します。
- 支払った金額を後から調整できなくなる
- 実質的な負担が重くなる可能性がある
- それでも放棄に応じる合理性があるケース
支払った金額を後から調整できなくなる
一度示談書にサインすると、後から「求償権の意味を知らなかった」として放棄を撤回することは、原則として認められません。
放棄条項の有無はサインする前に必ず確認しておきましょう。すでにサインした場合の対応は、関連記事で解説しています。
実質的な負担が重くなる可能性がある
本来、不倫の責任は2人で分け合うものです。放棄すると、金銭面ではひとりで負うことになります。
慰謝料200万円で負担割合が半分ずつなら、求償できれば実質的な負担は100万円で済むところ、放棄すると200万円全額を負担することになります。
放棄条項の有無で最終的な負担額が大きく変わる点を意識してください。
それでも放棄に応じる合理性があるケース
一方で、放棄した方がよい場合もあります。不倫をした配偶者に資力がなく、求償しても回収が見込めないケースや、求償によって相手方との関係が再燃するのを避けたいケースです。
また、放棄と引き換えに減額を引き出せるなら、応じた方が結果的に有利になることもあります。回収の見込みと減額の幅を比較して判断しましょう。
求償権放棄を減額交渉の材料にする

求償権の放棄は、無条件で応じるのではなく、減額の材料として活用することが考えられます。以下の順に解説します。
- 放棄は相手にとって価値のある条件である
- 減額と引き換えに応じるという進め方
- 提示する順序とタイミング
- 交渉が難しくなりやすいケース
放棄は相手にとって価値のある条件である
前述のとおり、求償権が残っていると、相手方は受け取った慰謝料の一部を失うおそれがあります。
求償権の放棄は、その不安を取り除く条件です。相手方にとって価値があるからこそ、こちらから対価を求める余地があります。
「放棄するなら減額してほしい」という主張は、共同不法行為の仕組みに沿った合理的なものです。
減額と引き換えに応じるという進め方
具体的には、放棄する代わりに、配偶者の負担部分に相当する金額を差し引くよう求める進め方が考えられます。
たとえば200万円の請求に対し、負担割合を半分ずつと見て100万円前後への減額を提案するイメージです。
実際の減額幅は、不倫の期間や経緯、相手方が離婚するかどうかによって変わります。状況を確認しながら進めましょう。
提示する順序とタイミング
放棄は最初から差し出すのではなく、金額交渉が進んだ段階で提示する方が効果的な傾向があります。
最初から放棄を前提にすると、減額交渉で使える材料がなくなるためです。
示談書に放棄条項が入っている場合は、そのまま受け入れず、「放棄には応じるが金額を見直してほしい」という形で回答するとよいでしょう。
交渉が難しくなりやすいケース
相手方がすでに離婚を決めている場合、配偶者に求償が向かっても家計に影響しないため、放棄に価値を感じてもらえず、減額につながりにくい傾向があります。
感情的な対立が強い場合や、相手方に弁護士が付いて強気の姿勢を崩さない場合も、交渉は難しくなりやすいといえます。
このような場合は、放棄以外の減額事情も併せて主張することが重要です。
支払った後に求償権を行使する場合

すでに慰謝料を支払った方は、求償権を行使できる可能性があります。求償権の行使のやり方を、以下の順に解説します。
- 誰に対していくら請求できるのか
- 負担割合はどのように決まるか
- 内容証明による請求から回収までの流れ
誰に対していくら請求できるのか
求償権を行使する相手は、不倫をした配偶者本人です。慰謝料を受け取った相手方に請求するものではありません。
請求できるのは、支払った慰謝料のうち自分の負担部分を超えた分です。
なお、示談書で求償権を放棄している場合や、慰謝料の金額自体がもともと負担部分の範囲内に収まっている場合は、求償できない可能性があります。まずは示談書の内容を確認してください。
負担割合はどのように決まるか
負担割合は、不倫に対する責任の程度に応じて決まります。
法律で一律に定められてはおらず、どちらが関係を持ちかけたか、既婚者であることを隠していたか、関係の期間などが考慮されます。
一般的には配偶者の方が責任が重いと考えられ、不倫相手の負担割合は半分以下と評価されることも少なくありません。もっとも、負担割合は事案ごとの判断となり、相手が争えば裁判で決まることになります。
内容証明による請求から回収までの流れ
求償権の行使は、内容証明郵便による請求から始めるのが一般的です。支払った慰謝料の金額、負担割合、請求額と支払期限を記載します。
相手が応じれば合意内容を書面にして支払いを受け、応じなければ訴訟を提起し、判決を得たうえで回収を図ります。
示談書や振込記録など、慰謝料を支払ったことを示す資料を揃えておきましょう。
求償権を行使する際の実務上の注意点

求償権は行使すれば必ず回収できるわけではありません。行使する前に、以下の3点を確認しておきましょう。
- 相手に支払能力があるかを確認する
- 行使できる期間
- 行使によって関係が再燃するリスク
相手に支払能力があるかを確認する
求償権を行使しても、相手に資力がなければ回収はできません。
不倫をした配偶者が離婚で財産分与や養育費の負担を抱えている場合や、収入が不安定な場合は、判決を得ても回収が難しくなる可能性があります。
内容証明や訴訟には費用と時間がかかるため、回収の見込みと費用のバランスを検討してから着手することが大切です。
行使できる期間
求償権は慰謝料を支払った時点で発生し、権利を行使できることを知った時から5年で時効にかかると考えられています(民法166条1項)。
分割払いの場合は、支払いごとに時効の進行が問題となり得ます。
支払いから時間が経っている方は、早めに期間を確認してみてください。
行使によって関係が再燃するリスク
求償権を行使すると、配偶者と再び連絡を取ることになります。
関係が切れた相手と金銭のやり取りをすることで、感情的なトラブルが再燃したり、相手方から接触を疑われたりするリスクがあります。
求償するなら、直接連絡を取らず弁護士を通じて書面でやり取りする方が安全です。
不倫の慰謝料と求償権に関するよくある質問

求償権についてよくいただく質問にお答えします。
- 求償権を放棄しないと示談はできませんか?
- 放棄した場合、慰謝料はどのくらい下がりますか?
- すでに全額を支払った後でも求償できますか?
- 示談書に求償権の定めがない場合はどうなりますか?
求償権を放棄しないと示談はできませんか?
放棄しなければ示談できないという決まりはありません。放棄は相手方が希望する条件のひとつにすぎません。
ただし、相手方が強く求めている場合、応じないと示談がまとまらないことはあり得ます。前述のとおり、減額と引き換えに応じる形で折り合いをつけるのが現実的です。
放棄した場合、慰謝料はどのくらい下がりますか?
不倫をした配偶者の負担部分に相当する額が目安となり、実務上は請求額の半額前後まで減額される例もあります。
もっとも、減額幅は事案によって大きく異なり、離婚を前提とする相手方の場合はほとんど減額されないこともあります。
すでに全額を支払った後でも求償できますか?
放棄していなければ、支払った後でも求償できる可能性があります。
ただし、前述のとおり消滅時効や相手の支払能力などの課題があります。支払いを示す資料と示談書を用意したうえで、請求の可否を検討しましょう。
示談書に求償権の定めがない場合はどうなりますか?
記載がない場合、求償権は放棄されていないため原則として行使できます。
なお、「一切の債権債務がないことを確認する」といった清算条項は、示談当事者間の債権債務を対象とするものです。当事者でない配偶者への求償には原則として及ばないと考えられますが、記載によっては争いになるため、文言を確認してから判断してください。
求償権のことでお悩みなら弁護士へご相談を

今回は、不貞慰謝料における求償権について解説しました。負担部分を超えて支払った分は、不倫をした配偶者に求償できるのが原則です。示談書の放棄条項は無条件で応じるものではなく、減額交渉の材料として活用できる可能性があります。
とはいえ、放棄に応じるべきか、減額をどこまで求めるか、行使すべきかをおひとりで判断するのは難しいものです。
若井綜合法律事務所では、不倫の慰謝料を請求された方、すでに支払った方からのご相談を初回無料でお受けしております。24時間365日受付、LINEでのご相談にも対応しており、全国どこからでもご相談いただけます。ご相談内容は秘密厳守いたしますので、家族や職場に知られたくないという場合もご安心ください。
示談書にサインする前であれば選択肢は多く残されています。放棄条項を目にして迷われたときは、サインする前に一度ご相談ください。
