マッチングアプリで知り合った相手に、勢いで本名や生活圏のわかる情報、人に見られたくない画像まで渡してしまった。まだ何も起きていないけれど、いつ晒されるかわからない――。本記事では、トラブルが生じる前の段階で弁護士が介入し、ご依頼の当日に合意書の締結まで至った経緯を紹介します。

※本記事は当事務所が実際に解決した事例をもとに作成しています。依頼者のプライバシー保護のため、氏名・年齢・具体的な状況等については一部変更を加えています。

事案の概要(ご相談前の状況)

何も起きていないからこそ、不安が消えなかった

依頼者は、関東地方在住の女性です。マッチングアプリを通じて知り合った男性(相手方)と、実際に会う関係になりました。

そのやり取りのなかで、依頼者は相手方に対し、本名のほか、居住しているエリアが特定できる情報、家族の写真、そして人に見られたくない内容のメッセージや画像を渡していました。相手が信頼できる人物だと感じていたためです。

ところが、知り合ってからまだ日が浅いことに冷静になって気づいた依頼者は、次第に不安を覚えるようになります。しかも、こちらの情報を渡した後から、相手方との連絡が取りにくくなっていました。

この時点で、相手方が依頼者を脅したり、情報を晒すと告げたりした事実はありません。トラブルらしいトラブルは何も起きていない状態です。しかし依頼者にとっては、だからこそ不安が消えませんでした。何かが起きてからでは取り返しがつかない。そうお考えになった依頼者は、当事務所にご相談のうえ、ご依頼いただきました。

弁護士の対応と解決への流れ

「お願いベース」であることを率直に説明したうえで受任

ご相談を受けた段階で、担当弁護士はまず見通しを率直にお伝えしました。

本件では、相手方に違法な行為があるわけではありません。依頼者自身が渡した情報について、削除や不拡散を法的に強制する根拠はなく、相手方が合意書の作成に応じない可能性も十分にあります。担当弁護士は、この対応があくまで相手方の任意の協力を求めるものであることを明確に説明しました。

それでも依頼者のご意向は変わりませんでした。所内でも協議を行い、通知の方法と文面を慎重に設計することを前提に、ご依頼をお受けしています。

相手方が「協力したくなる」通知を設計する

本件で最も重要だったのが、相手方に送る書面の内容でした。

法的な請求ができない事案で、威圧的な文面を送れば何が起きるか。相手方は身構え、反発し、協力どころか連絡そのものを断つでしょう。場合によっては、かえって相手方を刺激する結果にもなりかねません。

そこで担当弁護士は、相手方を責める表現や、法的責任を示唆する記載を一切用いないこととしました。代わりに、依頼者がどのような経緯で不安を抱くに至ったのかを丁寧に説明し、書面を取り交わしておくことが相手方にとっても意味を持つことが伝わる構成としています。万一情報が流出した場合、相手方自身が疑われる立場に置かれかねません。合意書は、依頼者を守ると同時に、相手方の立場も守るものです。

文面については、依頼者にも確認していただきました。依頼者から、一部の表現を削除してほしいというご要望があり、これを反映したうえで送付しています。書面が相手方の手元に残る以上、記載する内容そのものにも配慮が必要でした。

相手方からの連絡を受け、その日のうちに締結

書面を送付した数時間後、相手方から当事務所に連絡がありました。合意書の作成に協力するという回答です。

ここから先の動きは早く進みました。担当弁護士はただちに合意書案を作成し、依頼者に確認していただいたうえで相手方にも提示。相手方からも了承を得ると、本人確認のため身分証明書の画像を送付していただきました。その後、電子契約サービスを利用して締結の手続に進み、相手方の承認をもって合意が成立しています。

書面の送付から締結まで、同じ日のうちに完了しました。ご依頼から数えても当日中の解決です。

締結後、担当弁護士は双方に対し、メッセージアプリのトーク履歴とアカウントの削除を進めるよう案内しました。書面上の約束だけでなく、データそのものを手元からなくす手順まで含めて完了させています。

双方のプライバシーに配慮した処理

本件では、相手方の個人情報の取扱いにも配慮しました。

合意書には相手方の氏名や住所が記載されますが、これをそのまま依頼者にお渡しすれば、今度は相手方の側が不安を抱えることになります。担当弁護士は、相手方に対し、その個人情報が依頼者に開示されることはないと事前に説明したうえで本人確認を行い、依頼者に交付する合意書については、相手方の住所などをマスキングした形で作成しました。

協力を求める立場である以上、相手方に不利益や不安を与えない配慮が欠かせません。この点も、相手方が短時間で応じてくださった一因だったと考えています。

解決結果と弁護士のコメント

解決内容

  • 個人情報や画像の削除、不拡散を内容とする合意書を締結
  • ご依頼の当日中に締結まで完了
  • メッセージ履歴とアカウントの削除まで含めて対応
  • 相手方の個人情報を依頼者に開示しない形で処理し、双方のプライバシーに配慮
  • 金銭の支払いなく解決

担当弁護士からのコメント―渡してしまった情報や画像が不安な方は弁護士にご相談を

マッチングアプリなどで知り合った相手に、勢いで本名や生活圏のわかる情報、人に見られたくない画像を渡してしまい、後になって不安になるというご相談は少なくありません。

この種のご相談には、法的に難しい面があります。ご自身の意思で渡した情報について、削除や不拡散を相手方に強制する法的な根拠は、原則としてありません。実際に流出したり、拡散すると告げて脅されたりした場合には、名誉毀損やプライバシー侵害、脅迫罪といった問題が生じますが、何も起きていない段階では、相手方の任意の協力を求めていくほかないのです。

だからこそ、どのように協力を求めるかが決定的に重要になります。法的な根拠がないにもかかわらず、責任を追及するような書面を送れば、相手方は反発し、態度を硬化させます。本件では、相手方を責める記載を一切避け、依頼者が不安を抱くに至った経緯を説明したうえで、書面を取り交わすことが相手方にとっても意味を持つことが伝わる構成としました。結果として、書面が届いた当日に協力の意思が示されています。

また、相手方のプライバシーへの配慮も欠かせません。協力を求める以上、相手方に新たな不安を生じさせない形で手続を進める必要があります。本件では、相手方の個人情報が依頼者に開示されない形を確保したうえで本人確認を行いました。

なお、合意書に法的な強制力がないのではないか、と心配される方もいらっしゃいます。確かに、書面があれば絶対に流出しないと保証できるものではありません。しかし、相手方が自ら削除と不拡散を約束した書面が存在することは、万一の場合に相手方の責任を追及するうえで意味を持ちますし、何より、弁護士が関与して書面を取り交わしたという事実自体が、その後の抑止力として働きます。

そして何より申し上げたいのは、何も起きていない段階でご相談いただくことの価値です。一度画像や情報が拡散されてしまえば、完全な回復はきわめて困難になります。本件の依頼者は、まだ何のトラブルも生じていない段階で行動されました。その判断が、当日中の解決という結果につながっています。

知り合って間もない相手に個人情報や画像を渡してしまい不安を抱えている方、削除の約束を書面で取り付けたい方は、お一人で抱え込まず、ぜひ一度当事務所にご相談ください。