男女の関係はないにもかかわらず、上司の配偶者から不貞を疑われ、誓約書への署名と金銭の支払いを求められる。勤務先の駐車場にまで現れ、非通知の電話が繰り返される――。本記事では、弁護士が窓口となって交渉を引き受け、一方的な要求に応じることなく接触が止まった経緯を紹介します。
※本記事は当事務所が実際に解決した事例をもとに作成しています。依頼者のプライバシー保護のため、氏名・年齢・具体的な状況等については一部変更を加えています。
事案の概要(ご相談前の状況)
勤務先にまで現れ、誓約書への署名を求められた
依頼者は、中国地方在住の会社員女性です。職場の直属の上司と、勤務時間外に食事やお茶をともにする機会が重なっていました。もっとも、男女の関係に至った事実はありません。
ある時期、上司の配偶者である相手方が二人のやり取りを知るところとなりました。相手方は、依頼者と上司との間に不貞関係があったものと考え、依頼者に対して強い態度で接触してくるようになります。
非通知の電話が繰り返しかけられ、ショートメッセージが届き、さらには依頼者の勤務先の駐車場にまで現れるようになりました。会社の近くで姿を見かけることもありました。相手方の要求は、誓約書に署名すること、そして金銭を支払うことでした。
依頼者にとって、自宅や勤務先の周辺で相手方と遭遇するかもしれないという状況は、日常生活そのものを脅かすものでした。年末年始を控えた時期でもあり、このまま年明けを迎えることへの不安から、依頼者は当事務所にご相談のうえ、ご依頼いただきました。
弁護士の対応と解決への流れ
受任前の段階で、法的な見通しと方針を整理する
ご相談を受けた段階で、担当弁護士はまず法的な見通しをお伝えしました。
男女の関係がない場合、慰謝料の支払義務が生じないのが原則です。もっとも、親密なやり取りが平穏な婚姻生活を侵害したと評価される例外的な場合もあり、その可能性が完全に否定できるわけではありません。
そのうえで、誓約書の作成は法律上の義務ではないこと、したがって原則として応じない姿勢を取りつつ、内容によっては応じる解決もありうることを説明しました。また、介入後に相手方からの連絡や接触がない状態が続けば、それも一つの解決の形であることをお伝えしています。
方針を共有したうえで受任し、ご依頼の翌日には相手方に対して代理人就任の通知を送付しました。相手方の生活状況を踏まえ、確実に本人が確認できる方法として、ショートメッセージで通知書のデータを送る方法を選んでいます。
感情的なやり取りを引き受け、依頼者を交渉から切り離す
介入後、相手方からは当事務所に対して繰り返し連絡が入りました。折り返しの電話がつながらない、対応が遅いといった申し入れもあり、一度の通話が1時間を大きく超えることもありました。
担当弁護士は、そのすべてを窓口として引き受けました。この種の事案では、相手方が感情を強く昂ぶらせている状態にあることが少なくありません。当事者同士が直接やり取りをすれば、些細な言葉が新たな対立を生み、事態は悪化していきます。弁護士が間に入り続けることで、依頼者は交渉の場から完全に切り離され、日常生活を守ることができます。
応じられる条件と応じられない条件を明確に線引きする
交渉では、相手方から複数の要求が示されました。依頼者が上司と今後私的な接触をしないこと、連絡先を削除すること、上司が独立した場合にその業務を手伝わないこと、謝罪をすること、そして物品の返還や過去の飲食費の負担などです。
担当弁護士は、これらを一つずつ検討しました。依頼者が受け入れても支障のない条件については柔軟に応じる姿勢を示し、他方で、法的な根拠を欠く金銭の要求については明確に拒否しています。また、依頼者側からも、勤務先や自宅での接触をしないこと、本件を第三者に口外しないこと、これに反した場合には警察に相談する可能性があることを条項に含めるよう求めました。
条項の文言についても慎重な検討を重ねました。たとえば接触禁止については、業務上必要な場面まで制限されると依頼者の就労に支障が生じるため、私的な接触に限定する必要があります。後日「これは合意に含まれていない」「これは違反だ」といった争いが生じないよう、想定される場面を具体的に詰めていきました。
こうして当方の最終的な回答を提示しましたが、相手方はこれを受け入れるかどうかの判断を示さないまま、やり取りが途絶えることとなりました。
警察への事前相談を含め、万一に備える
交渉の途中、相手方が勤務先を訪れて当事者間で直接話し合いたいという意向を繰り返し示す場面がありました。担当弁護士はそのつど控えるよう伝えましたが、実際に行動に出る可能性は否定できません。
そこで担当弁護士は、依頼者に対し、現時点で警察に状況を共有しておくことを勧めました。あらかじめ事情を伝えておけば、万一勤務先に来られた場合に、警察が速やかに動ける状態をつくることができます。依頼者はこの助言を受けて、警察への相談を行っています。
その後、相手方から依頼者本人への直接の接触はなくなりました。勤務先周辺に現れることも、非通知の電話がかかってくることもありません。担当弁護士は一定の期間、経過を見守り、相手方からの連絡も接触もない状態が続いていることを確認したうえで、事件を終結しました。
解決結果と弁護士のコメント
解決内容
- 慰謝料や飲食費など、法的根拠を欠く金銭の要求に応じることなく解決
- 一方的な内容の誓約書に署名することなく解決
- 弁護士が窓口となり、勤務先周辺への出現や非通知の電話といった直接の接触が止まった
- 依頼者が相手方と直接やり取りする必要がなくなった
- 相手方からの連絡・接触がない状態を確認して終結
担当弁護士からのコメント―身に覚えのない請求を受けてお困りの方は弁護士にご相談を
配偶者のいる方と親しくしていたことをきっかけに、その配偶者から責任を追及されるというご相談は数多くあります。本件のように、男女の関係がないにもかかわらず疑われてしまうケースも、決して珍しくありません。
法的には、不貞行為がなければ慰謝料の支払義務は生じないのが原則です。もっとも、やり取りの内容や頻度によっては、平穏な婚姻生活を侵害したと評価される例外的な場合もあり得ます。まずは、ご自身の行為がどのように評価される可能性があるのかを整理することが出発点となります。
そして、誓約書に署名する義務はありません。相手方から示された書面にそのまま署名してしまうと、想定していなかった場面まで制限を受け、日常生活や就労に支障が生じることがあります。たとえば接触禁止の条項ひとつをとっても、業務上必要なやり取りまで含まれてしまえば、働き続けること自体が難しくなりかねません。署名する場合であっても、文言を慎重に検討する必要があります。
また、勤務先の周辺で待ち伏せをする、繰り返し非通知で電話をかけるといった行為は、その態様によっては迷惑防止条例やストーカー規制法の問題となる場合があります。実際に被害が生じる前の段階であっても、警察に状況を共有しておくことには意味があります。あらかじめ事情が把握されていれば、万一のときに対応が早くなるためです。
本件では、最終的に合意書の締結には至りませんでした。しかし、依頼者にとって最も重要だったのは、書面を取り交わすことではなく、金銭を支払わずに済むこと、不本意な約束をさせられないこと、そして平穏な生活を取り戻すことでした。その意味では、目的は果たされています。合意に至ることだけが解決ではありません。相手方からの接触が止まり、安心して生活できる状態になれば、それも一つの解決の形です。
最後に、この種のトラブルでは、相手方の配偶者を介して事を収めようとする方がいらっしゃいます。しかし、それがかえって相手方の感情を刺激し、事態を悪化させることが少なくありません。弁護士が窓口となり、やり取りの経路を一本化することが、結果として最も安全な解決につながります。
身に覚えのない請求を受けている方、誓約書に署名するよう迫られている方、勤務先や自宅の周辺で待ち伏せをされてお困りの方は、お一人で抱え込まず、ぜひ一度当事務所にご相談ください。
