別れたいと伝えるたびに強い言葉を向けられ、話を切り出すことすらできなくなる。自宅にまで来られ、警察を呼ばざるを得なくなる――。本記事では、警察の対応と並行して弁護士が交渉を進め、接触禁止と相互の権利放棄を内容とする合意書を締結した経緯を紹介します。

※本記事は当事務所が実際に解決した事例をもとに作成しています。依頼者のプライバシー保護のため、氏名・年齢・具体的な状況等については一部変更を加えています。

事案の概要(ご相談前の状況)

別れ話を切り出せないまま、関係が続いていた

依頼者は、関東地方在住の女性です。数年にわたり交際していた男性(相手方)との間でトラブルが生じ、関係を解消したいと考えるようになりました。

ところが、依頼者が別れ話を切り出しても、相手方はこれを受け入れませんでした。それどころか、依頼者を強く畏怖させるような言動が繰り返され、依頼者は話し合いそのものを持ち出せない状態に追い込まれていきます。

連絡が来るたびに強い不安を覚え、相手方を怒らせないよう、これまでどおりのやり取りを続けるほかない。そうした状況が続いていました。

このままでは生活が立ち行かないと考えた依頼者は、インターネットで当事務所の男女トラブル相談窓口を見つけ、ご相談のうえ、ご依頼いただきました。

弁護士の対応と解決への流れ

受任直後の緊急事態に備え、具体的な対応方法を指示

受任にあたり、担当弁護士がまず行ったのは、緊急時の対応方法を具体的にお伝えすることでした。

この種の事案では、弁護士が介入した直後が最も危険な時期にあたります。担当弁護士は、相手方から連絡があっても無理に応答する必要はないこと、万一相手方が自宅を訪れた場合にはご自身で対応せず、退去に応じないのであれば直ちに警察へ通報することを、あらかじめ明確にお伝えしていました。

実際、受任からまもなく、相手方が依頼者の自宅を訪れて居座るという事態が生じました。依頼者は事前の指示どおり警察に通報し、警察官が臨場したうえで、相手方に対してつきまとい行為としての警告がなされました。依頼者も警察署で事情を説明しています。

弁護士に依頼していても、その場の危険から身を守るのは警察の役割です。あらかじめ対応の手順を共有しておいたことで、依頼者は迷わず行動することができました。

受任通知で法的な評価を示し、書面による解決を提示

担当弁護士は、警察対応と並行して、相手方に受任通知を送付しました。

通知では、相手方のこれまでの言動について、法的にどのような問題が生じうるかを具体的に指摘しました。そのうえで、現状では刑事手続を検討せざるを得ないとしつつ、速やかに書面を作成し、今後一切、依頼者本人およびそのご家族、勤務先などの関係者に連絡・接触しないこと、本件に関する情報を第三者に口外しないことなどを約束するのであれば、穏当に解決できる可能性があると提示しています。

相手方に対して、要求を続けた場合のリスクと、自ら引き下がる道とを同時に示す構成です。

相手方の要望も取り入れ、双方が義務を負う合意書へ

受任通知を受けた相手方からは、当事務所に連絡がありました。相手方も書面による解決を望み、あわせて、自身の側についても接触禁止や口外禁止の義務を負う形にしてほしいという要望が示されました。

担当弁護士は、依頼者の利益を損なわない範囲でこれを検討し、双方が同じ義務を負う内容の合意書案を作成しました。一方だけに義務を課す形よりも、双方が同じ立場で約束する形のほうが、相手方が署名に応じやすくなります。あわせて、合意内容が守られる限り刑事手続を取らないという条項を、当方からの譲歩として盛り込みました。

また、依頼者からは、相手方のSNSアカウントに関する不安が寄せられていました。担当弁護士はこの点も交渉の中で取り上げ、削除を要望しています。

交渉が停滞した局面で、いったん打ち切る姿勢を示す

交渉は順調には進みませんでした。合意書を送付した後、相手方から、署名を見送りたい、期限に猶予がほしいという申し出があり、あわせて条項の修正要望も示されました。

ここで担当弁護士が取った対応は、交渉を続けることではありませんでした。すでに案文を提示して説明し、相手方も内諾していた手続を拒むのであれば、これ以上こちらから提案することはできない、送付した正本はそのまま返送してほしい、合意を希望するのであれば相手方の側から具体的な書面案を提示してほしいと回答したのです。

交渉を打ち切る姿勢を明確に示したことで、状況は動きました。その後、相手方は合意書に署名し、当事務所に返送しています。ご相談から合意書の締結までは約2か月でした。

解決結果と弁護士のコメント

解決内容

  • 接触禁止・口外禁止・相互の権利放棄を内容とする合意書を締結
  • 双方が同じ義務を負う形とすることで、相手方の署名を得た
  • 金銭の支払いなく解決
  • 受任直後の緊急事態に対し、警察の警告を得る形で対応
  • ご相談から合意書の締結まで約2か月

担当弁護士からのコメント―別れたいのに別れられない方は弁護士にご相談を

交際関係を解消するかどうかは、本来それぞれの当事者が自由に決められることです。相手が納得しない、受け入れないという理由で、関係を続けなければならない法的な義務が生じることはありません。

それにもかかわらず、別れ話を切り出すこと自体ができなくなってしまうご相談は数多くあります。話を持ち出せば何を言われるかわからない、何をされるかわからないという不安から、関係を終わらせる決断そのものが封じられてしまうのです。ご本人が一人で向き合っている限り、この状態から抜け出すことは容易ではありません。

弁護士が代理人として介入することで、連絡の窓口が一本化され、ご本人が直接やり取りをする必要がなくなります。そのうえで、相手方の言動が法的にどのように評価されるのかを示し、行為の中止を求めることができます。

もっとも、弁護士の介入だけで身の安全が確保されるわけではありません。自宅を訪ねられた、その場から立ち去ってもらえないといった状況では、まず警察に通報していただく必要があります。退去を求めたにもかかわらず応じない行為は不退去罪の問題となりますし、つきまとい行為についてはストーカー規制法に基づく警告などの措置が取られる場合もあります。警察は目の前の危険に対応し、弁護士は法的な解決の枠組みをつくる。この役割分担を理解したうえで、両方を並行して進めることが重要です。だからこそ当事務所では、ご依頼いただいた段階で、緊急時にどう行動していただくかを具体的にお伝えするようにしています。

また、こうした事案では、相手方が一方的に義務を負う形に強く抵抗を示すことがあります。本件では、相手方からの要望を踏まえ、双方が同じ義務を負う内容の合意書としました。依頼者の利益が損なわれない限り、形式面で譲ることによって早期の締結につながる場合があります。何を譲り、何を譲らないかの見極めが、解決までの時間を大きく左右します。

交渉が停滞した局面で、あえて打ち切る姿勢を示すことが有効な場合もあります。譲歩を重ねるほど、相手方はさらに検討の時間を求めるようになります。当方の提案が最終的なものであることを明確に伝えることで、相手方に判断を迫ることができます。

最後に、合意書を締結した後についても申し上げておきます。接触禁止の条項は双方を拘束するものです。相手方が約束を守っているにもかかわらず、こちら側から連絡を取ってしまえば、合意違反を問われるだけでなく、それまで積み上げてきた警察との信頼関係にも影響しかねません。せっかく手にした平穏な状態を維持するためにも、合意の内容はご自身も守り抜いていただく必要があります。

別れたいのに別れられずにいる方、別れ話を切り出せずにお困りの方、自宅に来られるなど身の危険を感じている方は、お一人で抱え込まず、ぜひ一度当事務所にご相談ください。