関係を終わらせたいと伝えても受け入れてもらえず、それどころか「自分の名前は伏せてよいから、配偶者に事実を伝えろ」と繰り返し迫られる――。本記事では、弁護士が代理人として関係解消を通知し、相手方からの接触が止まった経緯を紹介します。
※本記事は当事務所が実際に解決した事例をもとに作成しています。依頼者のプライバシー保護のため、氏名・年齢・具体的な状況等については一部変更を加えています。
事案の概要(ご相談前の状況)
関係解消を申し出たところ、配偶者への告白を迫られるようになった
依頼者は、関東地方在住の会社員男性です。かつて同じ職場で知り合った女性(相手方)と、長期間にわたり交際関係にありました。双方に家庭がある関係でした。
依頼者は、家庭がある以上この関係を続けることはできないと考え、相手方に対して交際関係を解消したい旨を伝えました。しかし相手方はこれを受け入れませんでした。
その後、相手方が依頼者に繰り返し求めるようになったのが、依頼者の配偶者に対して関係の事実を伝えること、いわば配偶者への告白でした。しかも、自分の名前は伏せたうえで事実だけを伝えるように、という内容です。
依頼者は、家庭を壊すつもりはなく、関係を静かに終わらせたいと考えていました。しかし相手方からの連絡は途切れず、要求も止まりません。依頼者が対応に迷っている間に、相手方は依頼者の配偶者について否定的な発言をするようにもなり、状況は膠着していきました。
このまま個人でやり取りを続けても関係を終わらせられないと判断された依頼者は、当事務所にご相談にお越しになり、ご依頼されました。
弁護士の対応と解決への流れ
受任通知の送付方法を慎重に検討する
本件で最初の検討課題となったのは、受任通知をどのような方法で相手方に届けるか、という点でした。
通常、受任通知は相手方の住所宛に郵送します。しかし本件では、その方法を採ると、相手方の家庭内に書面が届き、相手方の家族の目に触れる可能性がありました。そうなれば相手方が動揺し、かえって依頼者への攻撃的な行動を招くおそれがあります。事態を収束させるための通知が、逆に事態を悪化させる引き金になりかねません。
そこで担当弁護士は、まず依頼者のメッセージアプリのアカウントから、押印済みの受任通知書のデータを相手方に直接送信する方法を採りました。送信後は既読が確認できた時点でアカウントをブロックしていただき、以後の直接のやり取りを遮断する、という手順です。
既読がつかない場合の対応
ところが、送信後しばらく経っても、相手方のアカウントには既読がつきませんでした。
こうした場合、通知が届いていないまま時間だけが過ぎるおそれがあります。担当弁護士は依頼者と協議のうえ、数日待っても状況が変わらなければ別の手段に移ることとし、実際に既読がつかないまま推移したため、次の段階に進みました。
具体的には、担当弁護士から相手方の携帯電話に直接架電し、応答がなかったため、受任通知と同じ内容をショートメッセージと電子メールで送信しました。文字数の制限に収まるよう本文を調整したうえで、代理人に就任したこと、交際関係を解消する旨、依頼者本人およびその家族を含む関係者に一切接触しないこと、本件に関する情報を第三者に口外しないこと、主張がある場合はすべて代理人宛てに連絡することを明記しています。
複数の手段を重ねることで、通知の内容が相手方に到達したことを、客観的に説明できる状態を確保しました。
反応がない状況で、あえて追撃しないという判断
受任通知の送付後、相手方から当事務所への連絡はありませんでした。依頼者本人への接触も止まりました。
この段階で、相手方に改めて連絡を取り、態度を確認したり、誓約書の提出を求めたりすることも考えられます。しかし担当弁護士は、あえて静観する方針を採りました。
相手方が沈黙している状態で当方から働きかければ、収まっていた感情を再燃させ、かえって接触を招くおそれがあります。依頼者が望んでいたのは、相手方に何かを認めさせることではなく、関係が終わった状態を静かに維持することでした。目的に照らせば、動かないことが最善の対応となる場面があります。
もっとも、放置していたわけではありません。担当弁護士は、依頼者に対しておよそ1か月ごとに状況を確認する連絡を入れ、相手方から不測の行動があった場合には刑事手続も含めて対応する準備があることを説明していました。
結果として、受任通知の送付後、相手方から依頼者本人への接触も、当事務所への連絡も一切ありませんでした。3か月以上にわたって接触のない状態が確認できたため、事件を終結しています。依頼者が最も恐れていた配偶者への告白の強要も、それ以上求められることはありませんでした。
解決結果と弁護士のコメント
解決内容
- 弁護士の介入後、相手方からの接触と要求が止まった
- 配偶者への告白を迫られる状況が解消された
- 相手方の家庭に事情が知られる形を避けつつ、通知を確実に到達させた
- 金銭の支払いなく解決
- 3か月以上にわたり接触のない状態を確認して終結
担当弁護士からのコメント―関係を終わらせたいのに応じてもらえない方へ
関係を解消するのに、相手方の同意は必要ありません
交際関係を解消するかどうかは、それぞれの当事者が自由に決められることです。相手方が納得しない、受け入れないという理由で、関係を続けなければならない法的な義務が生じることはありません。
それにもかかわらず、実際には「相手が別れてくれない」という状態が何年も続いてしまうご相談が数多くあります。連絡を断てば何をされるかわからない、職場や家族に知らされるかもしれない、という不安から、関係を終わらせる決断そのものができなくなってしまうのです。
弁護士が代理人として関係解消を通知することには、二つの意味があります。一つは、解消の意思が正式なものであることを客観的な形で示せること。もう一つは、以後の連絡がすべて弁護士を経由することになり、ご本人が直接やり取りをしなくてよくなることです。この二点だけでも、状況は大きく変わります。
「配偶者に言え」という要求に応じる義務はありません
本件で相手方が求めていたのは、依頼者が自らの配偶者に関係の事実を伝えることでした。
配偶者に何をどこまで伝えるかは、その方自身が家庭の状況を踏まえて判断すべき事柄です。第三者から強制される筋合いのものではありません。要求の態様によっては、強要罪などの問題が生じる可能性もあります。
現実には、こうした要求に応じてしまう方もいらっしゃいます。しかし、一度応じればそこで終わるとは限りません。次は「直接会って話をさせろ」「慰謝料を払え」と、要求が段階的に広がっていくことも少なくありません。要求に応じる前に、一度立ち止まって専門家にご相談いただきたいと思います。
通知の届け方には、事案ごとの工夫が必要です
受任通知は、単に送ればよいというものではありません。どのような方法で届けるかによって、その後の展開が変わることがあります。
本件のように、相手方にも家庭がある場合、住所宛に書面を郵送すれば、相手方の家族がそれを目にする可能性があります。それによって相手方が追い詰められ、依頼者への攻撃的な行動に転じてしまえば、通知を出した意味がなくなってしまいます。
他方で、メッセージアプリで送信しただけでは、相手方が確認したかどうかがわからないという問題があります。本件でも既読がつかない状態が続いたため、電話、ショートメッセージ、電子メールと手段を重ね、内容が到達したことを客観的に説明できる状態を確保しました。
どの方法が適切かは、相手方の生活状況、連絡手段、想定される反応によって変わります。この判断は、事案の見通しそのものに直結する部分です。
あえて何もしない、という選択もあります
弁護士に依頼すると、常に何らかの請求や交渉が行われると思われがちですが、必ずしもそうではありません。
本件では、受任通知の送付後に相手方が沈黙したため、こちらから働きかけることをせず、静観する方針を採りました。相手方に誓約書の提出を求めれば、書面という形は残ります。しかしそのために連絡を取ること自体が、収まりかけた感情を再び刺激するおそれがありました。
依頼者の目的が「関係を終わらせ、平穏な状態を取り戻すこと」にある場合、目的はすでに達成されています。そこから先の行動は、達成された状態を壊すリスクを伴います。何をするかと同じくらい、何をしないかを見極めることが重要な場面があります。
もちろん、ただ放置するわけではありません。定期的に状況を確認し、相手方が再び動いた場合には直ちに次の手段を取れる体制を維持したうえでの静観です。
慰謝料の問題は、別に検討する必要があります
関係の解消をめぐるご相談では、別途、慰謝料の問題が生じる可能性についても検討が必要です。
一方の配偶者から相手方に対して慰謝料が請求されることもあれば、その逆もあり得ます。関係解消の交渉とは性質の異なる問題ですので、切り分けて考える必要があります。
ご相談の際には、現在の状況だけでなく、今後起こり得る展開についても見通しをお伝えしたうえで、方針をご提案しています。
お一人で抱え込まず、ご相談ください
関係を終わらせたいのに相手が応じてくれない、家族や職場に知らせると言われている、配偶者に伝えるよう迫られている、連絡を断ちたいが何をされるか不安だ――こうしたお悩みをお持ちの方は、お一人で抱え込まず、ぜひ一度当事務所にご相談ください。
